Regalecus glesne
リュウグウノツカイ
銀の帯のような体を垂直に立て、背びれだけを波打たせて泳ぐ。硬骨魚類では世界最長で、 全長11mの記録がある。地震の前触れという俗説は、単に弱った個体が浅場へ流れ着くだけのこと。
- 生息深度
- 200–1,000 m
- 全長
- 最大 11 m
- 発光
- なし
- 記録
- 硬骨魚類 最長
ABYSSOPELAGIC ARCHIVE / 記録 001–010
光は水深200mで尽きる。
そこから先の海は、地球でもっとも広く、もっとも知られていない。
Scrolling is descending.
海面から届く光は一万分の一以下。青の残響だけが漂う層。ここに生きるものの多くは、 自らの光で会話し、自らの影で身を隠す。
Regalecus glesne
銀の帯のような体を垂直に立て、背びれだけを波打たせて泳ぐ。硬骨魚類では世界最長で、 全長11mの記録がある。地震の前触れという俗説は、単に弱った個体が浅場へ流れ着くだけのこと。
Macropinna microstoma
頭部が透明なドームで覆われ、その中に緑色の管状眼が二つ埋まっている。眼は真上を向いて 獲物のシルエットを探し、必要に応じて前方へ回転する。顔に見える黒い二点は眼ではなく鼻孔。
Architeuthis dux
直径27cmに達する、動物界で最大の眼を持つ。その眼はマッコウクジラが泳ぐときに生じる 発光プランクトンの明滅を、120m先から捉えるためのものだと考えられている。捕食者を見るための眼。
Vampyroteuthis infernalis
学名は「地獄の吸血イカ」。だが実際に食べているのは、沈んでくる死骸の粒 ──マリンスノーだけである。危険が迫ると腕を頭にかぶせて裏返り、 墨の代わりに青く光る粘液を放って闇に溶ける。
Megalodicopia hians
海底に根を張り、大きく口を開けたまま数時間じっと待つ。プランクトンや小エビが入った瞬間に フードを閉じる、動物と植物のあいだのような捕食者。ホヤの仲間でありながら、濾過をやめて 待ち伏せを選んだ一族。
太陽光は完全に絶える。ここから下、海に存在する光はすべて生物が自分で作ったものになる。 水温4℃、水圧100気圧。海全体の体積の、およそ四分の三がこの闇である。
Himantolophus groenlandicus
額の提灯は自分では光らない。中に住まわせた発光バクテリアが光る。餌を釣るための光であり、 同時に相手を見つけるための光でもある。雄は雌の百分の一の大きさしかなく、 出会えば体に噛みついてそのまま融合し、血管をつなげて一生を終える。
Bathynomus giganteus
ダンゴムシの近縁が、深海で50cmまで巨大化したもの。深海生物にしばしば起こる 「深海巨大症」の代表格。鳥羽水族館の個体は、5年1ヶ月ものあいだ何も食べずに生き、 そして死んだ。胃の中は空だった。
Enypniastes eximia
泳ぐナマコ。内臓が透けて見える半透明の体で、帆のようなヴェールを広げて漂う。 外敵に触れられると、光る皮膚の一部を剥がして相手に貼りつける。 光る印をつけられた捕食者は、今度は自分がより大きな捕食者に狙われる。
大洋底が広がる層。堆積物が1,000年に数ミリずつ積もる。ここでの「食事」とは、 数百年に一度沈んでくる鯨の死骸か、絶え間なく降りつづけるマリンスノーの粒である。
Pseudoliparis swirei
水深8,336mで撮影された、世界で最も深いところに棲む魚。体はゼラチン質で、 骨は薄く、頭蓋骨は閉じていない。細胞が圧力で潰れないようTMAOという物質を体内に満たすが、 その濃度の限界がおよそ8,200m――魚という形が存在できる、地球上の下限である。
海溝のみに存在する層。全海洋のわずか0.25%。水圧は1,100気圧を超え、 親指の爪ほどの面積に軽自動車一台がのしかかる。人類がここへ到達した回数は、 月面に立った人数よりも少ない。
Hirondellea gigas
マリアナ海溝チャレンジャー海淵、水深10,911m。地球上でもっとも深い場所の底にいたのは、 体長4.5cmの端脚類だった。海溝に沈んだ流木のセルロースを分解する酵素を持ち、 殻には水酸化アルミニウムの膜をまとって、強酸性の消化液から自らを守っている。
10,911 m
チャレンジャー海淵の底。エベレストを逆さに沈めても、頂上まで2,000m以上の水が残る。
それでもここには生き物がいて、静かに、休みなく、降ってくる粒を食べている。