ABYSSOPELAGIC ARCHIVE / 記録 001–010

深海図鑑 Creatures of the
Lightless Sea

光は水深200mで尽きる。
そこから先の海は、地球でもっとも広く、もっとも知られていない。
Scrolling is descending.

潜航開始
N 11°22'.4 / E 142°35'.5 MAX. DEPTH 10,911 m
200—1,000 m

漸深層

MESOPELAGIC — the twilight zone

海面から届く光は一万分の一以下。青の残響だけが漂う層。ここに生きるものの多くは、 自らの光で会話し、自らの影で身を隠す。

No.01

Regalecus glesne

リュウグウノツカイ

銀の帯のような体を垂直に立て、背びれだけを波打たせて泳ぐ。硬骨魚類では世界最長で、 全長11mの記録がある。地震の前触れという俗説は、単に弱った個体が浅場へ流れ着くだけのこと。

生息深度
200–1,000 m
全長
最大 11 m
発光
なし
記録
硬骨魚類 最長
No.02

Macropinna microstoma

デメニギス

頭部が透明なドームで覆われ、その中に緑色の管状眼が二つ埋まっている。眼は真上を向いて 獲物のシルエットを探し、必要に応じて前方へ回転する。顔に見える黒い二点は眼ではなく鼻孔。

生息深度
600–800 m
全長
約 15 cm
発光
なし
特徴
透明な頭部
No.03

Architeuthis dux

ダイオウイカ

直径27cmに達する、動物界で最大の眼を持つ。その眼はマッコウクジラが泳ぐときに生じる 発光プランクトンの明滅を、120m先から捉えるためのものだと考えられている。捕食者を見るための眼。

生息深度
400–1,000 m
全長
最大 13 m
発光
なし
記録
最大の眼 φ27 cm
No.04

Vampyroteuthis infernalis

コウモリダコ

学名は「地獄の吸血イカ」。だが実際に食べているのは、沈んでくる死骸の粒 ──マリンスノーだけである。危険が迫ると腕を頭にかぶせて裏返り、 墨の代わりに青く光る粘液を放って闇に溶ける。

生息深度
600–1,200 m
全長
約 30 cm
発光
発光粘液
酸素
3 % 環境で生存
No.05

Megalodicopia hians

オオグチボヤ

海底に根を張り、大きく口を開けたまま数時間じっと待つ。プランクトンや小エビが入った瞬間に フードを閉じる、動物と植物のあいだのような捕食者。ホヤの仲間でありながら、濾過をやめて 待ち伏せを選んだ一族。

生息深度
500–1,000 m
体長
約 8 cm
発光
なし
捕食
待ち伏せ型
1,000—4,000 m

漸深海層

BATHYPELAGIC — the midnight zone

太陽光は完全に絶える。ここから下、海に存在する光はすべて生物が自分で作ったものになる。 水温4℃、水圧100気圧。海全体の体積の、およそ四分の三がこの闇である。

No.06

Himantolophus groenlandicus

チョウチンアンコウ

額の提灯は自分では光らない。中に住まわせた発光バクテリアが光る。餌を釣るための光であり、 同時に相手を見つけるための光でもある。雄は雌の百分の一の大きさしかなく、 出会えば体に噛みついてそのまま融合し、血管をつなげて一生を終える。

生息深度
500–1,500 m
全長
雌 60 cm / 雄 4 cm
発光
共生細菌
繁殖
矮雄の融合
No.07

Bathynomus giganteus

ダイオウグソクムシ

ダンゴムシの近縁が、深海で50cmまで巨大化したもの。深海生物にしばしば起こる 「深海巨大症」の代表格。鳥羽水族館の個体は、5年1ヶ月ものあいだ何も食べずに生き、 そして死んだ。胃の中は空だった。

生息深度
600–2,000 m
体長
最大 50 cm
発光
なし
記録
絶食 1,869 日
No.08

Enypniastes eximia

ユメナマコ

泳ぐナマコ。内臓が透けて見える半透明の体で、帆のようなヴェールを広げて漂う。 外敵に触れられると、光る皮膚の一部を剥がして相手に貼りつける。 光る印をつけられた捕食者は、今度は自分がより大きな捕食者に狙われる。

生息深度
500–5,000 m
体長
約 25 cm
発光
剥離する発光皮膚
別名
Headless Chicken Monster
4,000—6,000 m

深海層

ABYSSOPELAGIC — the abyss

大洋底が広がる層。堆積物が1,000年に数ミリずつ積もる。ここでの「食事」とは、 数百年に一度沈んでくる鯨の死骸か、絶え間なく降りつづけるマリンスノーの粒である。

No.09

Pseudoliparis swirei

マリアナスネイルフィッシュ

水深8,336mで撮影された、世界で最も深いところに棲む魚。体はゼラチン質で、 骨は薄く、頭蓋骨は閉じていない。細胞が圧力で潰れないようTMAOという物質を体内に満たすが、 その濃度の限界がおよそ8,200m――魚という形が存在できる、地球上の下限である。

生息深度
6,900–8,336 m
全長
約 28 cm
発光
なし
記録
最深の魚類
6,000—10,911 m

超深海層

HADOPELAGIC — named after Hades

海溝のみに存在する層。全海洋のわずか0.25%。水圧は1,100気圧を超え、 親指の爪ほどの面積に軽自動車一台がのしかかる。人類がここへ到達した回数は、 月面に立った人数よりも少ない。

No.10

Hirondellea gigas

カイコウオオソコエビ

マリアナ海溝チャレンジャー海淵、水深10,911m。地球上でもっとも深い場所の底にいたのは、 体長4.5cmの端脚類だった。海溝に沈んだ流木のセルロースを分解する酵素を持ち、 殻には水酸化アルミニウムの膜をまとって、強酸性の消化液から自らを守っている。

生息深度
6,000–10,911 m
体長
約 4.5 cm
発光
なし
記録
最深部の生物

10,911 m

これより下はない

チャレンジャー海淵の底。エベレストを逆さに沈めても、頂上まで2,000m以上の水が残る。
それでもここには生き物がいて、静かに、休みなく、降ってくる粒を食べている。